めくりめく鏡中の世界(蝶編)

私は蝶が好きだ。
青虫のときは、ただひたすら葉を食べて生きているのに、やがて羽化し、まったく別の姿になる。やわらかな羽を持ち、風に乗り、花から花へと渡り歩きながら蜜を集め、知らないうちに受粉という大切な役割を果たしている。
誰に評価されるでもなく、誰に感謝されるでもない。けれど確かに、世界の循環の一部として、美しく機能している。

私はその在り方が、とても好きだ。

一方で、私は病気を抱えて生きている。
うつで会社を休むたび、必要以上に後ろめたさを感じてきた。
復職しても、どこか信用されていないような空気があり、任されるのは雑用ばかりだった。責任ある仕事から外されていく感覚は、想像以上に心を削るものだった。

「役に立っていない存在なのではないか」
そんな思いが、いつも胸の奥に沈んでいた。

だから私は、蝶になりたかった。
誰にも迷惑をかけず、むしろ静かに役に立ち、何も主張しなくても世界の一部として意味を持てる存在に。

でも私は、会社では蝶になれなかった。
評価の物差しや、効率や、成果という言葉の中では、うまく羽ばたくことができなかった。

それでも今、創作の中では違う。
ここでは、私は自分のペースで羽を広げていい。
誰かと比べなくていい。速さも、大きさも、正解もいらない。
ただ、自分が見たもの、感じたものを、形にして差し出すことができる。

この作品は、そんな私自身の「羽化」の記録なのだと思う。

万華鏡の中で反射し続ける蝶たちは、現実には存在しない。けれど、その存在しないはずの蝶が、誰かの心に小さな光を灯すことがあるなら、それはもう十分に「意味のある存在」なのだと思う。

今日もこの作品が、どこかで傷ついている誰かの心に、ほんの一瞬でもやさしい風を届けることができますように。
そして、その風が、また誰かの中の小さな羽をそっと揺らすことができますように。

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